カナダから来てしばらく弘前に滞在していたカナダ人ジェイソン・フリッチは、相撲の木版画などめっぽううまいアーティストなのだが、彼の置き土産の話です。
トム・ウェイツとニック・ドレイク。
ニック・ドレイクは私の知らなかったカナダ人のシンガー・ソングライターで、私がジェイソンからもらったのは、彼のベスト版のCDだった。
歌詞などの日本語訳がついていないので、何度もめくったライナーノーツや歌詞も、どれだけ理解できているかわからないけど。
声とギターが風のように私に入った。
ニック・ドレイク。
この名前がなかなか覚えられなくて(今は覚えた!)、人にも知らせることはなかったし、いいよと言っても人がどう感じるか、見当つかなかった。でも私は大好き。心の深くですごく好き。
彼の人生は1948年6月19日~1974年11月25日。
26才で死んでしまった。
神経をすりきらせて、自らの命を絶ってしまった。
もったいない、とすごく思う。でもしかたがない。
美しい曲を何曲も残してくれたことに感謝するしかない。
カナダは、ロックに限らず優れたミュージシャンをたくさん出している国だ。そのわりにカナダという国自体はいがいに知られていないように思う。もちろん私も行ったことはないし、森や川が豊かなこと、アメリカとつきあいながらもとるべき態度はとっていること、玄関に鍵をかける人は大都会以外では少なく、銃を狩猟以外もつことは殆どないこと、などを聞き知っているだけだ。「文明国」のなかで比較的自然の豊かな国、だとは思う。
ニック・ドレイクの声は、そしてギターはとても洗練されているが、自然のなかの生きもののリズムや波動をもっている。と、私は感じる。
シャウトひとつもせず、つつましやかに発声・発音するのみで、彼の表現は、森の小リスの営みが私たちに気づかれることなく豊かになされるごとく、その命も木々に見守られて静かに終えるごとく、深く慎重に、私の心に入ってくる。しんしんと浸みとおる。
こういうミュージシャン、そんなに多くない。
今も生きていたら、新しい曲も作ってくれていたら、それなりに励みになったなあとは思うけれど、残されて人に届くものの貴重をだいじにしよう。
ニック・ドレイク。
私の、小さなきれいなダイアモンド。
こどものような年で死んだけれど、まるで千年も生きたような、誰にも似てない人。